梵我瞑想法十地次第

梵我瞑想法十地次第徹底解説シリーズ

第３章　「大静謐」とAUMマントラの裏ビート性

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第三章　「大静謐」とAUMマントラの裏ビート性

　聴く耳の有る人は、耳を澄ませ、よく聴いてみましょう。　
　　「根源の大静謐音」を。すなわち、隻手（せきしゅ）の音声（おんじょう）を。
たった今、その場所で－－－。　
　
　「世の喧騒」から意識を離して、耳を澄ましてみることです。
　　無辺の虚空、広大なる宇宙全土に、「音無き音」が響き渡っています。
　地球を越え、太陽系を越え、諸銀河を越えて、「音無き音」が響き渡っています。
　この根源の「大静謐音」を聴こうとして耳を澄ます人は、豊かな祝福を受けるに到ります。
（但し、人は何秒、何分、何時間、この「音無き音」に集中し続けることができるでしょうか。散漫なる意識は、この音に意識集中していることが中々困難です。）

　
有りとあらゆる音という音は、根源の「大静謐音」から飛び立ち、根源の「大静謐音」に再び帰ります。根源の「大静謐音」とは、それ以外の総ての音を産み出す「母なる音」ですが、「有」の音ではありません。
かといって、音が全くない「無」音ではありません。
　根源の「大静謐音」は－－－＜「完全なる静謐」という母なる音＞－－－です。
　根源の「大静謐音」は、音が無い状態ではありません。この音は、確かに「在る音」です。根源の「大静謐音」は、「完全なる静謐」という「一つ」の（仮にこのように数えることが許されるならば）、確かに「実在する音」です。
　「実在する根源の大静謐音」は、人間が地球上に生物として誕生するずっと以前から、全宇宙に超然と鳴り響いています。
　「完全なる静謐」という「大静謐音」は、宇宙誕生のビッグバンよりもずっと以前から、時間と場所と空間を問わず、全宇宙・全霊界に超然と鳴り響いています。

　根源の「大静謐音」は「無為」の音です。この音は「無為」によって全宇宙を遙かに超えて超然と鳴り響いています。
　根源の「大静謐音」を、人間の作為によって創り出すことは勿論、不可能です。
　この＜人間のはからいを超えている超越性＞を深く認識しながら耳を澄ます人は、大叡智に近づいて行きます。

根源の「大静謐音」を除く、総ての「有る音」は、その音がどれほど大音量のものであっても、どれ程強い勢いの有るものであっても、やがては衰え、消え行き、遂には「完全なる静謐」の中に吸い込まれてしまいます。
　これが「有」の音です。
「有」について、仏教では「老死がある有」という概念を使用しますが、この場合の「有」もそのような「生起と消滅」を宿命付けられた「有」と考えて正しいです。　
　それ故、根源の「大静謐音」を除く、総ての「有る音」は、儚（はかな）い陽炎のようなものであり、泡沫（うたかた）の夢のようなものです。
　根源の「大静謐音」を除く、総ての「有る音」は、空気振動に依る音です。ゆえに、空気の無い処でその音が鳴り響くことはありません。地球上に渦巻く無数の「有る音」は、それが如何に大音量の音であろうと、地球の大気圏外に伝播して行くことはありえません。
　それ故、根源の「大静謐音」を除く、「有る音」は総て「無常なるもの」です。

　一方、母なる「大静謐音」は、空気の有る処に限定されることがありません。
　母なる「大静謐音」は、空気の有る処でも空気の無い処（真空）でも一切関係無く、均一に響き渡っています。
　母なる「大静謐音」は、「有る音」がガンガン鳴っている処でも「有る音」が殆ど鳴っていない閑静な処でも、どこであっても一切関係無く、均一に響き渡っています。
　斯（カク）の如く、母なる「大静謐音」は如何なる条件にも限定されません。
何物にも妨げられることなく、過去から未来へ、常恒不変に超然と鳴り響いています。

　
　母なる「大静謐音」は、どれ程の大爆音が有っても、決して掻き消されません。
　（正法の衰微した）末法の世の多くの人々は、注意力散漫の過失の故に、又はその過失が習慣化し、能力が衰退してしまったが故に、大きな爆音等に遭遇すると、母なる「大静謐音」はその大爆音ですっかり掻き消され、失われてしまうと感じてしまいます。
　大爆音ならずとも、地上に渦巻く様々な喧騒の音－－－ガヤガヤとやかましい人の声、都会の雑踏の音、乱痴気騒ぎの音、争乱の音、パニックに陥った人々の音、天変地異の轟音、耳をつんざく音、暴風雨や雷鳴の音等々－－－こうした音に遭遇すると、母なる「大静謐音」はすっかり掻き消され、失われてしまう気がするでしょう。

　しかし、母なる「大静謐音」は、如何なる爆音、轟音、大炸裂音の中でも、それに掻き消されることは絶対にありません。
　「掻き消される」と思うのは、それらの音に「気を取られて」しまう「人間の勘違い」に過ぎません。いつでも何処でも、母なる「大静謐音」は決して消えることなく、常恒不変に響き渡っています。
ですから、「有音に気を取られてしまう」という意識の動きを自覚して、意識を「大静謐音」に方に向け直すことです。
そのとき、精神には、ある変容が生じます。
　

　母なる「大静謐音」は、宇宙全土を遙かに越えて、超然と響き渡っています。
　宇宙の総てのうるさい音を掻き集めて来たとしても、それらの音の総計の音量たるや、母なる「大静謐音」の＜無限大の轟音＞（「轟音」という言葉を使うことが許されるならば）に較べれば、全く僅かなものに過ぎない。それは恰も、真空の宇宙空間に向かって声を張り上げる蟻一匹の鳴き声の如きものでしかありません。
　母なる「大静謐音」は、圧倒的な「大静謐の轟音」で宇宙全土を覆い尽くしています。
　実に、この世の騒音など－－－＜「大静謐音」の海面に立つ「泡の音」＞－－－程度のものに過ぎません。その音は深海にまでは決して届きません。
表面的な音たちは、「深海の静謐」を脅かすことはできません。

このように、　
＜圧倒的な覇権は「大静謐音」の方にある＞－－－これが不動の法です。
　（正法の衰微した）末法の世の多くの人々は、注意力散漫の過失の故に、又はその過失が習慣化し、能力が衰退してしまったが故に、ついつい「大きな勘違い」をしてしまいます。
　大半の人は、「大静謐音」より泡沫（うたかた）の「有る音」の大音量の方に気を取られ、そちらの方に「より強い存在感」を感じてしまうのです。
　そして、大音量の「有る音」こそが「大静謐音」を完全に掻き消し、完全に制圧し、完全に征服している、と感じてしまうのです。

　
　それは、実に、動物的でサル的な感（勘）違いです。
　これこそが、「音に関する本末転倒」です。
　人間の総ての我欲・苦悩・不幸・悲惨は、「音に関する本末転倒」という「感（勘）違い」に起因するものである、、と評すことすら可能なほどです。
　何故なら、こうした「感（勘）違い」が大本（おおもと）になり、そこから「落ち着きのない心の状態」（モンキー・マインド）が発生し、苛々を起こして悪業に走り、その自動的反作用で、人間界にあらゆる種類の不幸・苦悩・悲惨が生起して来るからです。

　
　「大静謐音」と「有る音」、どちらに覇権が有るか、感（勘）違いして本末転倒しないようにすることが、「真の幸せ」へと導かれるコツです。
未来永劫、覇権は「大静謐音」の方に有ります。この認識を失念しないようにしましょう。
　砂漠で水を渇望する如く、飢饉で食物を渇望する如く、「大静謐音」を正しく聴くことを渇望する人は、大いなる祝福を受けるでしょう。「大静謐音」を正しく聴くことを渇望し続ける人が、大いなる祝福を受けないで放って置かれることは決してありません。
ですから、これが、どんな宗教を信じて実践している人でも、その教義とバッティングすることなく実践できる「世界共通の普遍的な瞑想実践法」です。
この瞑想法は、どんなセクトにも属しません。ゼロセクトの教えです。
全宗教に共通の普遍の教えです。超宗教の教えと表現することも可能でしょう。
「ゼロセクト」とは、そういうことです。そのような意味で、本書では使用して行きます。

　
さて、インド伝統のマントラ（真言）に、AUM（オーム）マントラがあります。
このマントラは、総てのマントラの母とも呼ばれています。
なぜ、そう呼ばれているのでしょうか？
総てのマントラとは、「意念の容器」にして、「祈りの結晶文言」です。
ゆえに、「祈祷の言葉の意味」に、そのハートがあり、ハートを込めて祈りのマントラを唱えるときに、マントラは、その霊的効果を発揮する「ツール」として、起動します。
ゆえに、マントラ一般は、発音・発語されるその「有音」に「意識の重点」があります。
つまり、「朗誦される有音の有り様（ハートが籠もる精神波動かどうか）」に意識の重点が置かれるという意味で、「表ビート」です。

しかし、聖音AUM（オーム）マントラは、例外的に、「それではない」のです。
「発音されない静謐」を「×」で表してみましょう。すると、
聖音AUM（オーム）マントラは
　　×××××　AUM　×××××
という形でこそ、その全体像になります。
すなわち、「×××」という「母なる大静謐音」の方に意識の重点が置かれねばならないマントラなのです。その意味で、このマントラだけは、「裏ビート」で唱えられねばならないマントラなのです。

「有音」としての「AUM」は、「A」によって「生起」を表します。発音の始めの音です。
「U」は、生起の「維持継続」を表します。仏教の「生住異滅」で言えば、「住・異」に該当します。
「M」は、入滅を表します。「有」は、「やがて滅すること」を宿命付けられています。

ここで、「大きな誤解」に陥るポイントとしては、
「永遠の存在としての有」を想定する人が、多々いるということです。
つまり、「AUM」ではなく「AU」だけで、そのままずっと永遠に継続する、という誤謬の妄想をする人が多々いる、ということです。
仏教で言えば、「報身仏」という概念は、彼岸に渡って仏陀と成った者が報奨として得る「永遠の身体」という概念です。
しかし、これは、「AUM」マントラに反しています。
「AUM」マントラに即して言うならば、有身は入滅するものですが、再度、「A」として立ち上がる、ということになります。つまり、「消えたり現れたりする」ということになります。「消えた後と、現れたとき」の連続性については、保障されるものだと「信じる／信じない」は、別論になります。

「本物の縁起の法」が明らかになり、それを知ることを得た吉祥なる人々にとっては、
聖音AUM（オーム）マントラの全体像が、
　　×××××　AUM　×××××
という形である・・・と、このように聞いた途端に、それと「本物の縁起の法」の瞑想とが自然に合体融合して、「すべて」を「誤謬や逸脱なく、正しく」理解することができます。
すなわち、
「××××」という「母なる大静謐音」は「不生不滅の梵我（ブラフマン）」であると。
そして、「有音」で発音される「AUM」は、「生じるものは滅する性質のものである」という「無常なる仏教真理」（の虚妄法）を表しているということも即座に理解するのです。

つまり、仏陀の仏教言説は、「有音AUM」で象徴される「無常」を観想せよ、という教えであり、それによって、「有」が滅し没して行く「存在の基底」としての「大静謐」たる「無生法」を認識する、すなわち大乗仏教の要諦「無生法忍」へと連結して行く教えであったことが明らかになります。
ですから、簡単に言えば、仏陀の総ての言説は、正しく唱える方法としての「裏ビート性」を含めた形での「聖音AUMマントラ」を単に敷衍展開した言説体系に過ぎない、ということになります。
まさに、仏陀の教えは、「聖音AUMマントラが象徴する霊的真理」から、一歩たりとも迷い出る（逸脱した）ものではないのです。

ここで再度、「本物の縁起の法」と「AUMマントラ」を比較することで、次のような深い理解に達することができます。

　　　　　　→　U　→
相対世界　A　　　　　M　（虚妄な法）（世間虚仮）（無常・苦・無我・不浄）　　　　
・・・・・↑・・・・・↓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
絶対世界　××大静謐××× （不生不滅の梵我）（唯仏是真）（常楽我浄）

この図は、「涅槃経」でも説かれる図式です。
「『涅槃経』には、法身常住が説かれ、常・楽・我・浄が説かれるが、それは、その前提として、無常・苦・無我・不浄と説かれる世間法があるからである。その世間法を虚仮と見定めたところに「真実のさとり」があることを『涅槃経』は説こうとしている。」（小川一乗『さとりとすくい：涅槃経を読む』はしがき）
とある通りです。
つまり、「聖音AUMマントラが象徴する図式」は、仏教総てを包摂するものであり、もっと言えば、ヴェーダンタ密教すべてを包摂するものなのです。
以上をまとめると、次のような表現になります。

■「仏教（と一切経）は、聖音AUMの脚注に過ぎない」と。■

ところで、日本人は、地下鉄サリン事件などの凶行の発生を通して、「AUM」という言葉が連呼されながらも、おぞましい凶行が繰り返された事実を目の当たりにし体験しています。
これは、「AUM」は「聖音である」ということに反しないでしょうか?
しかし、この問い自体が、実は、的外れなものなのです。
聖音にするも、しないも、そのマントラを「用いる人の精神次第」なのです。
それが正解です。
つまり、外的な容器である「AUM」という言葉や文字自体に、圧倒的な「統制力」が宿っていて、そういう外的な力によって我々の内面が正しく統制されて行く、というような「強制力としての統制力」が、外的容器である「マントラ」にある、と思うのは誤解であるということです。
ですから、ここでも、「AUMマントラの裏ビート性」が正しく認識されなければならないのです。
ここでの「裏ビート性」とは、外的マントラの容器に重点があるのではなく、発音する直前の「動機」にこそ、重点がある、という意味です。

たんに、漫然として「AUM」と唱えていれば真理に導かれると思うのは、大間違いであり、サタンもそれを利用・悪用することができる、ということです。
泥棒が、「南無阿弥陀仏」と唱えながら強盗に入って、警察に捕まらずに強盗が成功したからまた、南無阿弥陀仏と感謝する・・・・というようなマントラき使用法も、このおぞましい地上では大いに有り得るわけですが、南無阿弥陀仏という外形的な言葉のみでは、泥棒を止める統制力は発揮されない、ということを明確に、明晰に知らねばなりません。

つまり、総てのマントラは、「悪用することができるもの」だと明晰に知って、悪用ではなく「正しく善用」するにはどうしたら良いか？
よくよく謙虚に、追求して行かねばならないのです。
そうでないと、「堕落した使用法」に、ついつい流れて行ってしまうのが、人間のサガであるわけです。
その「悪しき流れ」に「抗して行こう」とする（肉を統制して行こうとする）「熱い動機」こそが、マントラ使用における「裏ビート性」として、正しく認識されなければならないのです。

そして、「裏ビート性」を正しく自覚して唱える「AUMマントラ」は、「本物の縁起の法」と融合して、聖なる音となり、そのように「正しい動機」に基づいて唱える者を「大乗の奥義」である「無生法忍」（不生不滅の梵我の空を認識する）へと、一直線で、最短距離で、導いて行くのです。

AUMマントラの「裏ビート性」とは、「不生不滅の大静謐音」に意識を向け、それに意識を集中し瞑想することです。
ゆえに、ゼロセクトの瞑想実践法から見た「八福の教え」は、次のようなものになります。
すなわち、

一、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、深い安堵と平安の世界に導かれるからです。
二、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、深い喜びの世界に導かれ、自ずと微笑むからです。
三、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、得も言われぬ「豊饒と充実感」を味わうようになるからです。
四、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、浮世の時の流れとは別の時間の世界に参入できるようになるからです。
五、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、俗世に於いても鋭敏な平衡感覚を保持しつつ、的確で有意義な活動に従事できるようになるからです。
六、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、無限の向上進化の王道を突き進むための「陽気」と「鉄の意志」と「多彩な知恵」を、そこから不断に汲み上げられるようになるからです。
七、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、如何なる艱難辛苦の中にあっても、「無為」に基づく不動心を保って、祝福の道を確実に歩むことが可能になるからです。
八、母なる「大静謐音」を正しく聴こうと意識集中する人は幸いです。その人は、総ての問題（宗教上の見解の相違・邪見・人間の煩悩・我欲・病気・貧困・争乱・厄災等々）を一歩一歩超越して行く道を確実に歩めるようになるからです。

　
以上、まとめに、本章を約して一句－－－
　
　　「あ」　も無音　　声なき慈雨や　　無為の空
　　　　　　　　　　　　　　（「あ＝天×吾」掛け詞）

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